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葛西賢太さん『現代瞑想論』への書評(井上ウィマラさん)
【返信元】 宗援連関係者の出版物
2011年12月16日 13:29
『現代瞑想論―変性意識がひらく世界』春秋社 (2010/03)への書評が『宗教研究』第85巻370号に掲載されました。
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内容(「BOOK」データベースより)
私たちの日常は、覚醒と酩酊の往復という「変性意識」によってつくられている!アメリカで瞑想実践者が2000万人を超えた今、さまざまな変性意識を題材に、日常の中で、自分を振り返る「瞑想の時間」を持つ意味とその可能性を考える。
著者からのコメント
 変性意識論というのは、人間の意識の比較的小さい変化によってどんなことが起こりうるのかを考える心理学理論です。瞑想やシャーマニズムや神秘体験などを考えるために、宗教学や人類学などでしばしば変性意識について議論されました。いま、その議論はそれほど活発ではないのですが、それは、私たちが「ふだんの意識」と見なしているものとの比較が十分行われなかったからではないかと、私は考えています。
 ふだん、私たちは、自分の意識状態が目覚めている、覚醒していると考えています。しかし、運転しているときと、何か考え事をしているとき、本を読んでいるとき、いずれも何かには集中しているのですが、それぞれまったく異なる意識状態です。また、悩んでいるとき、怒っているときの意識状態もこれらとは異なります。さらに、私たちが目を覚ますためにとるカフェインは、アルコールと作用は異なりますが、変性意識状態をもたらす薬物でもあります。私たちは、カフェインによる「覚醒」という名の酔いと、アルコールによる酔いとの間で、さまざまな意識状態の間を自覚せずして揺れ動きながら生きているのです。こう考えると、通常意識というのは一言で説明できないほど多様なものだと、おわかりいただけると思います。
 意識状態を見つめる瞑想も、宗教が国境を越えて移動し混淆しあう現代社会において、改めて問い直されるべきなのでは? 熟達した実践者によるマニュアルや、瞑想の古典の注釈などにくわえ、現代の在俗者の視点から瞑想を考え直す本が必要なのでは? 古今東西の瞑想を通観する在俗者の視点をもちながら、瞑想を通して現代社会を考え、現代社会の観点から瞑想を見直す本を作りたいと思いました。本書でいう「瞑想」は、「超能力の獲得」や「人生の成功」を目指すものではなく、さまざまな苦難に出会いながら生きていくふつうの人が生活を見直すのに役立ちうるものという位置づけです。
 日本の宗教者がグローバルに活動・交流し、東西の実践をつなぐということは近代以前からありました。が、諸宗教のさまざまな混淆形態とあわせ、「伝統」が新たに作られる過程に、現代の私たちは立ち会っています。「釈迦が悟りをひらいた瞑想法」と自らを位置づけるヴィパッサナー瞑想の世界的興隆などはその例でしょう。また、依存症などの病の見直しに、断酒自助会をベースにした瞑想的方法が試みられ、その可能性と限界が探られていることは、私自身が日米を行き来しながら興味深く見守ってきて、前著『断酒が作り出す共同性』(世界思想社)で示したことでした。
 現在、宗教学界を挙げて諸先生方が宗教文化士資格制度の実現に取り組んでおられますが、本書はそれに対する私からの一つのレスポンスでもあります。
 人生の難儀にどう取り組むかという視点から、宗教が生き生きと捉えられることは、以前『宗教学キーワード』(有斐閣)の企画の際、共編者の先生方から教えていただきました。これまでの宗教心理学が、理論に拘束されて読者から離れてしまっていたのではないかということから、本書のような、人生の苦難を素材に、読み物として通読していただけるような形を、編集者と何度も何度も話し合いを重ねて構想しました。
 本書は宗教心理学のテキストとしての利用を想定し、新説の提示よりは、比較的知られている素材を扱い、思い切って註なしで読める本を試みました。また、これまで、誤りを含んだまま孫引きをしているテキストを少なからず見かけてきましたので、できる限り諸研究の原典を確認しそのニュアンスを詳述する作業に力を入れました。宗教学、心理学、人類学などの学術研究を基盤にしてはおりますが、学生やサラリーマンの方に読んでいただけたらと思い、事例を選びました。
 宝珠・仏性を思わせる、とても瞑想的な、しかし本書の趣旨を踏まえた明るい装丁も用意していただき、デザイナーの方にも感謝しています。宝珠の右肩に散る美しい光は、旋舞へのオマージュとはいうことでした(本文参照)。すてきな本にしていただいたのですが、ひとえに私の力不足で、論じ残したこともたくさんあります。お手にとっていただき、お気づきの点をコメントや私の個人ブログなどでご教示賜りましたら、これにまさる幸いはありません。

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